2022.05.30
友だちから見た田中会計
田中慎さんの肩書きの1つである「イノベーション・コーディネーター」。京都市ソーシャルイノベーション研究所(以下、SILK)という組織で活動しているのですが、田中経営会計事務所のスタッフですら何をしているのかよくわからないと言うこの職業。その実態をお伝えするために、京都市で開催されたSILKのイベントを取材しました。
SILKに6人いるイノベーション・コーディネーターの役割を一言で表すと、持続可能な社会をつくるためのビジネスを支援すること。事業の相談に乗ったり、行政や企業とおつなぎしたり、告知の協力をしたり。冊子の発行やイベントの企画・運営も行います。
コンサルタントではなく「コーディネーター」なので、活動の肝は、事業者さんにその事業を一緒に進めてくれそうな人や組織をご紹介すること。しかし、SILKは支援メニューや数値目標を持ちません。どのような支援を行うかは、一人ひとりのイノベーション・コーディネーターに委ねられています。
この日のイベントは、SILKオープンデー。予約制の事業相談に加えて入退場自由のセミナーやよろず相談のコーナーがあり、誰でも気軽に参加できる場として開催されました。ミニセミナー「SILKの活用の仕方」では、田中さんがこんなことをお話ししていました。
田中:事業の相談を受ける窓口は行政にも民間にもたくさんあるんですけど、社会をよりよくするためのビジネスについて聞かれても困ってしまう相談員さんも多いと思います。今までにない分野の話なので、「こんなアイディアを考えてるんですけど、どうでしょうか?」と言われても、展開の仕方がイメージできないんです。SILKはそこに特化して、起業前のアイディアの段階から、社会のために何かアクションしたいという方を支援しています。
最近は、SDGsをどうやって自社の事業に落とし込んだらいいのかという相談も増えてきました。他の支援機関や行政の方にも、新しい企業のあり方を知ったり、社会的な視点を身につけたりするきっかけとして、SILKを活用いただけたらと思います!
SILKの事業の一つに「これからの1000年を紡ぐ企業認定」があります。環境負荷の小さい農業の普及を目指す 株式会社坂ノ途中さん、オーガニックコットンと風力発電でタオルを作る IKEUCHI ORGANIC株式会社さんなど、これまでに28社を認定。イノベーション・コーディネーターが制度設計や運営にも携わり、認定企業をさまざまな面からサポートしています。
田中:「1000年を紡ぐ」って言うと、そんなんようしませんわってよく言われるんです。そらそうですよね。僕たちも、その企業が1000年続くかどうかを見ているわけじゃなくて。平安時代から1000年続いてきた京都が、これから先の1000年も続いていく、そういうまちを作るためのビジネスという捉え方をしています。なので認定の審査は、企業理念がビジネスに落とし込まれているか、地域や取引先、さらには地球環境にも配慮して事業を行っているか、社会に新たな価値を提供しているか、などの視点で行われます。業界も規模もさまざまな企業が認定されているので、どんな事業があるのかを見てもらえるとおもしろいと思います。
「これからの1000年を紡ぐ企業認定」認定企業一覧(pdf)
実はSILKのイノベーションコーディネーターは6人全員が複業で活動しています。なので、全員が集まる機会は月に1回程度。まちづくりアドバイザーやコンサルタント、プロジェクト設計など、異なる分野を得意とするメンバーがそれぞれの強みを活かしながら働いています。税理士の田中さんは、なぜイノベーション・コーディネーターになったのでしょうか?
田中:SILKが主催しているイノベーション・キュレーター塾を受講したのがきっかけですね。2015年、第1期生でした。当時は「ソーシャル」とか「イノベーション」という言葉がビジネスの現場で使われることってあまりなかったので、正直なところ、最初は謎の存在でした。あるイベントでSILK所長の大室先生と話す機会があって、いきなり「税理士も中小企業診断士も嫌い」と言われて(笑)。そこからSILKに興味を持ったのかな。よくわからんけど、こんな面白い人がやっている塾なら行ってみようと。
そこから1年間、衝撃を受けまくりましたね。「わけわからん!」って叫びたくなることも何回もあったし。塾長や塾生との対話を繰り返す中で、徹底的に自分のやりたいことの本質に向き合うことができた期間でした。卒塾後にSILKで働かへんかと誘ってもらって、今に至ります。
イノベーション・コーディネーターとして、はたまた税理士・中小企業診断士としても、事業アイディアの壁打ちや地域連携のアドバイス、補助金申請のサポートなどの事業支援をする田中さん。一方で、自身も色々な場で「いいですね!」「おもろいやん」「それやりましょうよ」とさまざまなプロジェクトを生み出しています。そんな田中さんにとって、理想の社会とはどんなものなのでしょうか?
田中:選択肢が多い社会がいいなと思っています。僕が時々言う「彩りある未来」っていうのも、要はそういうことで。それを言い始めたのは、イノベーション・キュレーター塾に応募するタイミングからですね。ただ、その時に考えていた「彩り」のイメージは今よりずっと狭かったと思います。
価値観とか考え方とか色々あるけれど、一番わかりやすいのは働き方かな。起業支援をしていて気づいたんですけど、多くの人はやりたいことをやるには会社を辞めて起業するしかないと思っています。でも、週3日は会社で働いて、複業で始めることもできますよね。そういう発想って、一部の人にとっては当たり前になってきているけれど、まだまだ一般的ではないんです。
田中:選択肢が増えることで、方向転換して新しい道に進む人もいるし、今いる道での不安がなくなって全力で走れることもあります。たとえば、事業に失敗して追い詰められている人には、そういう人を救うための色んな選択肢が用意されている。でも、それを知らずに絶望してしまう人も少なくありません。だから「違うやり方、違う見方もあるんちゃう?」っていう提案をし続けたい。自分一人でできることなんて本当に限られているとこの数年で痛感したので、選択肢を社会に提供している事業者さんをどんどん応援したいですね。SILKで働いていると、今までにない選択肢を創り出す人にたくさん出会えるので。
自分の子どもにも色んな選択肢に触れてほしいので、仕事仲間と遊ぶ時にはよく連れて行きます。大人との関わりが学校の先生と親と親戚だけでは、世界が狭すぎるから。聞いたことのない職業の人とか、学校にはない価値観を持っている人とか、色んな方面で楽しく生きている大人に会うことは大事かなと思ってます。
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話の途中で「SILKは最近ちょっと居心地がよすぎるからな」と口にした田中さん。その一言に、常にまだ見ぬ何かを求め続ける貪欲さを垣間見た気がしました。最後に、SILKの同僚であるイノベーション・コーディネーター 井上 良子さんに、田中さんはどんな人かを聞いてみました。
井上:青い炎みたいな人だよね。メラメラ燃える赤い炎じゃなくて、一見クールなんだけど密かに燃えている。しかも、近づくと火傷しそうなくらいの熱さでね。あんまり気持ちを表情に出さないから、事業相談会に来てくれた人が「私が一方的に語りすぎちゃって、すみません」っておっしゃったりもするんですよ。私も最初の頃は、どう思われてるんだろう……ってちょっと心配だったし。
でも、いつも相手の目線に立って真剣に考えてるから、本当に相手のためになる言葉しか出てこない。その場を乗り切るためだけの薄っぺらい発言がないですね。「先生」って呼ばれる立場の人だけれど、基本的に誰に対しても上から目線じゃなくフラットな姿勢で、人情味のある専門家っぷりがいいなと思ってます。
井上:SOU-MU NIGHTとかを見ていて思うのは、ものごとへの光の当て方が上手な人だなって。表立って目立つところじゃない本質的な部分を見ていて、多くの人が通り過ぎてしまうことをちゃんと取り扱おうとしてくれる。それを深刻な感じじゃなく、ちょっと外すのがまた上手いよね。独特なバランス感覚だなと思う。なんかいいことばっかり言っちゃったけど、大丈夫かな(笑)。
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私もSILKの広報担当として2人と一緒に働いているので、井上さんの言葉に深く頷きながら話を聞かせてもらいました。田中慎さんのイノベーション・コーディネーターとしての活動について、なんとなくイメージを持っていただけたでしょうか?
最後に、SILKwebサイトに掲載されている記事をご紹介します。よろしければ合わせてお読みください。
2021.01.27 研究コラム「起業環境の変化とバックオフィスの役割」田中 慎
2016.07.04 イノベーション・キュレーター塾生インタビュー 田中 慎さん
協力:京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)
文・写真:柴田 明
2022.05.30