2022.09.05
友だちから見た田中会計
「この仲井くんの抑えがいいんですよ!がんばって……!」
8月22日の午後。約束の場所へ行くと、試合は5回裏。下関国際高校は3-0で負けていた。立派なスクリーンにピッチャー 仲井 慎 選手の白い歯が輝く。今日は税理士法人の取材に来たはずではなかったか……。週末は甲子園球場で下関国際を応援してきたという、田中経営会計事務所(以下、田中会計)の熊倉さん。厳しい闘いが続く決勝戦を横目に、今後の展望についてお話を伺いました。
SIGHTS KYOTO 代表の西澤さんが顔を出してくれたり、三重県の中小企業診断士 鷲尾さんが行動を共にしていたり、この日も自然と“友だち”を呼び寄せる田中会計。インタビューは混戦を極めましたが、そんな背景も想像しながらお楽しみいただければ幸いです!
─ 昨年の取材で、武田さんの「うちの次の展開は、くまさんがどうしたいかによると思うねん。」という言葉が印象的でした。
熊倉:やめてください、そういう重要な感じで話ふるの!
田中:でも確かにそうやと思う。くまは最近、アシスタントみたいなかたちで幅広く経営をサポートするスキルを伸ばしたいって言ってて。会計だけじゃなくて、労務とか秘書っぽい動きも含めて。うちの事務所ではすでにやってくれてるし、これからお客さんにも展開していけたらと思っています。
熊倉:前職でバックオフィスが自分1人しかいない状態を経験したので、事務的な仕事がうまく回っていない会社のたいへんさが身に染みてわかるんです。インターンをしていた企業に新卒で秘書として入社したんですけど、現場でこぼれ落ちた作業を必死に拾っていくじゃないですか。そしたら、際限なく業務量が増えていって……仕事自体は楽しかったけど、本当にたいへんでした。
─ 以前の取材でも、「自分ができることを増やして慎さんの仕事を減らしたい」って言ってましたよね。
熊倉:慎さんにしかできない仕事がたくさんあるので。なるべくそっちに時間を使ってもらえるよう、私にできる作業は全部ふってくださいっていつも言ってるんですけどね。けっこう自分でやりたがるんですよ。だいぶ手放してくれるようになったけど、まだまだです。
田中:誰でもできる仕事を渡すっていうのは、くまの時間を奪うことになるから……。もっと勉強して力をつけてほしいと思いながら単純な作業をやってもらうのは、よくないかなって思ってしまうねん。一回お願いしても文章とかは自分でさらに手を入れたくなるし、こだわりが強いところもあるんかな。それでも「私がやります」って言い続けてくれるのはありがたい。
熊倉:誰かが負担を減らしていかないと、慎さんみたいな立場の人はいつかパンクしちゃうので。そうなると結局、私たちもしんどいし。気を遣ってくれてることも知っているから、任されることは全然苦じゃないです。今までやってこなかった仕事も多いので、自分の学びにもなるし。
─ お互いに相手のことを考えて良いバランスを探っているんですね。任せる側と任される側の意識が合っていることが大事なんだなと感じました。
熊倉:そうですね。何も考えず面倒な仕事をふってくる人だったら、多分イラッとします(笑)
─ サポートの幅が広がると、より会社の中に踏み込むことになるので、お客さんとの意識合わせがたいへんそうですね。
熊倉:難しいですよね。まだ具体的なプランがあるわけじゃないので、どうすればサービスとして成り立つのかをこれから考えないといけません。相手によって必要なサポートが全然違うと思うし、スキル面も動きながら習得していくしかないんじゃないかな。
田中:くまは好き嫌いで仕事を選ばないから、アシスタント業務は向いてると思います。必要だと思うことは何でも快く引き受けてくれるし、安定してやり続けられる人ですね。周りが良いテンポで動けるようリズムを作ってくれるので、僕はすごく助かっています。
熊倉:確かに、業務に対して嫌とかやりたくないって思うことはないですね。仕事なんで。チームの空気がギスギスしているとか、人間関係の問題は嫌ですけど。できることが増えていって自分の成長が会社の成長につながることは、純粋に楽しいし。
熊倉:前職では今とは立場が逆で、税理士さんに相談する側だったので、お客さんの苦労もよくわかります。つまずくところって皆だいたい一緒なんですよ。だから、自分が役に立てることがすごく嬉しいです。
─ くまちゃんが応援したいと思うのって、どういう人や企業なんですか?
熊倉:尊敬できる人、一緒にいて楽しい人かなぁ。仕事内容はあんまり気にしてません。どういう風に人と接する人なのか、どういう考え方をする人なのか、を見ているんだと思います。
田中:人との接し方には厳しいですね。僕とか武田が暴走すると、眉間にめちゃくちゃしわが寄った怖い顔でにらまれます(笑)。ええ加減にせえよっていう圧がすごい。
熊倉:そうかな。笑顔の方が得意ですよ!
─ それにしても、関東から一人で大阪に来たのは大きな決断ですよね。慎さんもスタッフ紹介の記事で「僕と武田がおいでやって言ってたら本当に来たから、こいつすごいなって思いました。度胸がある」と語っていました。
熊倉:引っ越すかどうか、めっちゃ迷いましたよ。でも、おもしろそうだなって思っちゃったんですよね。甲子園も近いし、来てよかったです!
田中:ちょっとアホなんやと思う(笑)
熊倉:あんなに来い来い言ってたのに。ひどくないですか。
田中:くまの生き方がまぁまぁおもしろいと思うねん。自分で道を切り拓いてるというか。えらいなと思ってる。地元は栃木やんな。
熊倉:地元はめっちゃ田舎なので、早く外に出たかったですね。でも、大学に行きたいって言ったら親に反対されて。どうしても四年制の大学に行きたかったから、説得するために管理栄養士の資格を取るという名目を考えて、首都圏の学校に入りました。本当は経済とかを学びたかったけど。このまま地元にいたら、自分の人生を自分で選べないんじゃないか……と思ってましたね。つまんないなーって。
田中:大学時代のバイト先でベンチャー企業の社長と出会って、その会社に入ったっていうのもすごいし。うちに入るまでの1年くらいは僕が東京でやった「SOU-MU NIGHT TOKYO」を手伝ってくれたり、そのあとコロナ禍になってオンライン勉強会を一緒にやったりして、そこから縁もゆかりもない関西に。度胸あるわ。
熊倉:もともとはけっこう否定的な性格だったんですけど、色んなことをおもしろがれるようになりましたね。
─ 7月まで、京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)が運営するイノベーション・キュレーター塾にも通われてましたね。どうでしたか?
熊倉:もう本当にきつかったです(笑)。課題が……ってずっと嘆いてました。そもそも、何回も断ってたんですよ、無理ですって。
田中:10回くらい勧めて、ようやく。
熊倉:今となっては行ってよかったと思いますけど。視野と人間関係は広がりました。田中会計の関係性とは違う、自分のネットワークができたのは嬉しいですね。京都の中小企業で働く方や大企業の方、職種や役職も色々で、年代も20代から60代まで。今まで出会ったことのないような人たちと仲良くなれました。
田中:京都に新しく会社を作ってもいいかもなと思ってるねん。田中会計の周りにおもしろい人がいっぱいいるやん。色々やりたいことが出てきた時に、税理士法人は業務範囲が決まってるから余白がないなぁと感じるようになってきて。新しい会社ができたら、くまが社長をやったらええんちゃうかな。
熊倉:はぁ?!絶対いやですって。
田中:またしばらく言い続けるわ(笑)。先月まで忙しかったんやけど、8月になってちょっと落ち着いてきたし、そんなことを考えてた。武田ががんばってる「バックオフィスのリノベーション」も必要としてくれる会社がたくさんあると思うし、2人とも、もっと前に出ていってほしいな。田中会計のスタッフの一人っていうポジションには留まってほしくない。
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途中、「あーっ」と大きな叫び声でインタビューは一時中断。7回裏、仙台育英がダメ押しの満塁ホームランを放ったのです。点差は8-1、下関国際高校の初優勝は叶いませんでした。最後に切なげな表情でスクリーンを見つめる熊倉さんをご覧ください。次回は「バックオフィスのリノベーション」について詳しくお伝えする予定です。お楽しみに!
文・写真:柴田 明
2022.09.05